「肝胆膵消化器病学」は横浜市立大学附属病院の消化器内科部門です

臨床試験について


1)大腸ポリープ切除後を対象としたポリープ再発抑制臨床試験

近年、大腸癌は全世界的に増加傾向にあり、中でも大腸ポリープの既往のある患者さんはその後に大腸ポリープや癌が発生する確率が高く、その対策が急務と なっております。大腸癌や大腸ポリープを、薬を使って予防することを化学予防といいます。全世界で大腸癌の化学予防について様々な研究がされております が、まだ確立されたものはないのが現状です。糖尿病の治療薬のひとつであるメトホルミンはこれまでの疫学研究で使用者は非使用者と比較して前立腺癌、乳 癌、腎癌、膵臓癌などの発生が低かったという報告があります。メトホルミンによる大腸腫瘍の抑制作用効果を検証する臨床試験を実施しております。

http://www.biomedcentral.com/1471-2407/12/118

2)ACFをターゲットとした大腸腫瘍の化学予防

大腸癌は一般集団での発生率はそれほど高いわけではなく、また仮に発生しても増大するまでにはある程度期間を要します。1のような臨床試験を行う場合、多 くの対象者に長い観察期間が必要となります。ACFは大腸内視鏡検査時に拡大観察で見える微小病変ですが、大腸癌や大腸ポリープと関連があることが判明し ており、また治療により短期間でも数が変化することがわかっています。私たちの教室では、大規模な化学予防試験の前に、薬剤の効果をみるためにACFを ターゲットとした小規模・短期間の臨床試験を実施しています。現在は、先述のメトホルミンに加えて、脂質異常症や動脈硬化などでも注目されているエイコサ ペンタエン酸(EPA)を対象にした臨床試験を実施しております。

3)潰瘍性大腸炎の増悪因子としての口腔内細菌

日経新聞3月27日

4)カプセル内視鏡を用いた潰瘍性大腸炎の小腸病変の解析

潰瘍性大腸炎は、従来病変は大腸に限局すると考えられてきましたが、近年、胃・十二指腸病変や、大腸全摘後のパウチ炎など、大腸以外の病変の報告が増えて きております。当教室では、小腸を非侵襲的に可視化できるカプセル内視鏡を用いて潰瘍性大腸炎患者さんの小腸を検査し、小腸にも病変が認められることを報 告しています。この検討により原因不明の潰瘍性大腸炎の病態解明や、新規治療の発明などができる可能性があります。

5)慢性便秘患者に対する適切な治療薬の選択

慢性便秘症は全人口の約15%が罹患しているといわれる、言わば「大衆病」です。QOLの3要素とは、(1)身体的異常がないこと、(2)心理的精神的異 常がないこと、(3)社会的問題がないこと、でありますが、慢性便秘患者はこのいずれもが大きく損なわれており、著しいQOLの低下があることがわかって います。しかし多くの患者さんが医療機関を受診しておらず、受診していても大半の患者さんは治療に満足していないのが現状です。また便秘には様々なパター ンがあり治療薬も異なりますが、医療者側の正しい知識不足から適切な治療薬が出されないまま漫然と経過観察されることも多いとされています。このため便秘 は「病気」としてきちんと対処し、今後正しい病態の理解と、それに応じた適切な治療法の選択、治療薬の開発などが必要です。当教室では、便秘患者さんに対 してX線不透過マーカー(ジッツマーク)検査を行い、より適切な治療薬の選択を行うことを研究しています。

6)体外式超音波を用いた胃運動能の評価

胃の運動には主に、食物塊を近位胃に受け入れる「弛緩」、食べ物を粉砕し、胃液との撹拌をしつつ幽門側に送る「蠕動」、幽門輪を通過して十二指腸に流出す る「排出」の3つが挙げられます。これまで多くの方法が、これらの運動を測定評価するために用いられてきましたが、侵襲性や高いコストの為に、実地臨床の 場で広く普及しているとは言えません。そこで、侵襲の極めて低い体外式超音波を用いて胃の「弛緩」と「蠕動」をreal timeに測定評価する方法を研究しています。現時点では健常ボランティアに対して、胃運動に作用する薬剤の影響を評価しています。今後は有症状の患者様 を対象として、症状の原因となる胃運動異常の診断や、薬物療法の効果の評価などに臨床応用することを目標としています。

その他、当教室では呼気試験を用いた胃排出能に関する検討、問診票を用いた腹部症状に関する検討、pHメータを用いた胃酸分泌抑制薬の胃内pHの立ち上がりに関する検討、カプセル内視鏡と無線式pHメータを用いた小腸pHに関する検討など、多くの臨床研究、臨床試験を行っており、各疾患分野での病態解明、治療薬の効果判定、臨床応用などに貢献しています。

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