「肝胆膵消化器病学」は横浜市立大学附属病院の消化器内科部門です

留学体験記 2021年5月寄稿

Harvard Medical School (HMS)/Massachusetts General Hospital(MGH)
日暮琢磨(平成17年卒)

1. はじめに

私は、2020年7月よりアメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンにありますHarvard Medical School(HMS)/Massachusetts General Hospital(MGH)に留学しております。兼ねてからの目標の一つであった海外留学を実現することができました。今後海外留学に挑戦される先生方のご参考になればとその体験記を寄稿させて頂きます。

2. 留学出発までとパンデミック

私は2013年に大学院を卒業してそのまま大学で助教にして頂き、数多くの臨床試験に関わらせてもらったり、大学院生の指導などにあたらせてもらっておりました。忙しくも充実した毎日を過ごしていましたが、数年経った頃に自身の医師人生を考えて、まだ比較的自由の効く30代のうちに海外留学に挑戦してみたいという思いが強くなり、40歳目前の2020年の4月からの留学を目指して2019年初辺りから留学先の選定を始めました。その中で、以前に私が大学院生の時代にメトホルミンを用いた大腸腫瘍の予防研究でLancet Oncologyに掲載された論文に対してEditorialを寄稿してもらい、その後アメリカ消化器病週間で教育講演を主宰し、当方を演者として招待してもらった縁を頼ってハーバード大学/マサチューセッツ総合病院(MGH)のAndrew T. Chan教授に受け入れの打診をしたところ了承の返事を頂き、2019年6月頃に留学先を決定することができました。その後のVISA申請なども順調に進んで意気揚々と出発の日を待っていた2020年初頃より全世界に拡がりをみせてきたCOVID-19の影響で、3月中旬、出発まで2週間と迫ったところで先方よりしばらくラボが閉鎖になるという連絡が来ました。もう航空券も購入済みで、病院の仕事の引き継ぎも済ませて準備万端だったのですが、仕方ないので感染が収まるのを待つことにしました。その間、大学で編成されたCOVID-19診療選抜チームに参加したり、論文を書いたりと過ごしていたところ、ラボの再開の連絡が来たので、2020年7月にその機会を逃さずに渡米することにしました。

3. パンデミック中の留学生活

ラボでは、私は主にヒト由来の大腸上皮オルガノイドを用いて大腸腫瘍の化学予防の実験を行っています。直接のメンターはリモートワークを積極的に取り入れていて、直接会うのは週に1-2回ですが、基本的には毎日ZOOMで種々の進捗などのやり取りをしています。食事なども個別で摂取していて、飲み会などもできず、せっかく楽しみにしていた異文化交流が十分に行えておりませんが、本稿を書いている2021年5月末からは、ワクチン接種が完了している人は屋内外での集まりなどの制限もなく、公共交通機関を除けばマスクも不要となります。あれだけ、感染者、死者を出していながら力技でワクチン接種を推し進めNew Normal一番乗りするあたりがいかにもアメリカらしいと感心しつつ、昨年できなかったラボメンバーとの飲み会やスポーツ観戦、旅行なども楽しみたいと思っています。

3)海外留学をしてみて

昔から、『可愛い子には旅をさせよ』という諺がありますが、旅(海外生活)を経験することは日本では経験できないような刺激が毎日あり、医療者、研究者というよりは人間としての成長を感じます。この留学を通じ、医学だけでなく、文化、社会、経済などを海外に出て見聞できたこと、日本の状況を海外から見ることによって、日本の良い点、至らない点に気づいたこと、自身の思考の偏りなどを客観的に見る機会を得れたことなど、これまでよりも視野が広がったと感じています。また、他大学の研究者、海外から留学してきている研究者、さらには医療分野以外の研究者と交流する機会もあり、友人関係が広がったことも私の人生における財産だと思っています。 家族も当初は慣れない環境で、学校もオンライン授業だったりととても苦労していましたが、徐々に現地の友達もできて、英語も上達してきており、日本に帰る日を待ち望んではいますが、振り返ってよい経験だったと言ってくれるのではと思っています。 帰国後はこの経験を少しでも教室に還元して皆さんのお役に立てるようにしたいと思っています。

4. 今後留学を目指す先生方へ

前章にも書きましたが、海外で生活して仕事をすることは、医師人生においてもなかなか経験できることではなく、特に若いうちは医療、手技を習熟することに目が行きがちですが、手技やその他の技術というのは時間が経つといつかはプラトーに達します。医師の人生は30年以上、長ければ40,50年働くこともあると思いますので、その長い人生の中でずっと国内で同じことを続けるのもよいですが、一度は海外で生活してみるのも自身の人生を豊かにする方法の一つではないかなと思います。 既に海外留学を目指している方、本稿を読んで少しでも海外に挑戦してみようかなと思った方などは是非お気軽にご連絡ください。 留学者を募集しているラボなどもいくつかご紹介できますし、具体的な留学に必要な手順や資金の確保などについてもアドバイスさせて頂きます。

5. 最後に

このような留学の機会を与えて頂いた、肝胆膵消化器病学 中島淳教授、医局員の皆様に厚く御礼申し上げるとともに、残りの留学期間も頑張ってまいる所存です。

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