「肝胆膵消化器病学」は横浜市立大学附属病院の消化器内科部門です

サンラファエル研究所留学体験記

河島圭吾 (平成21年卒)

はじめに

2021年9月より、イタリア北部の都市ミラノにあるSan Raffaele研究所に留学をしております。海外留学は、医師人生の中で大きな決断になるかと思います。私自身、コロナ禍もあり、海外留学を現実のものとするまでに、様々な葛藤や困難がありました。しかしながら、留学から得られる経験や喜びもひとしおであり、この体験記が、これから海外留学を考えておられる先生の一助になればと思います。

留学決定までの経緯

私は2011年に入局し、横浜労災病院で後期研修トレーニングをした後、2014年に大学院に入りました。それと同時に、肝炎ウイルスの研究で高名な名古屋市立大学ウイルス学の田中靖人教授の研究室に、国内留学致しました。そこで、アメリカのScripps研究所から帰国されたばかりの五十川正記先生のもとで、B型肝炎ウイルスとT細胞応答に関する基礎研究を始めました。研究生活は私にとって充実したものであり、諸先生方がなされてきたように、海外で経験を積みたいと思い始めました。また、もともと英語が得意ではなかったので、その上達のために日本語が使えない環境に身を置きたいとも考えていました。海外留学の希望がある事を五十川先生に相談したところ、Scripps研究所の同僚であったMatteo Iannacone博士が主任研究員になっておられるイタリアの研究室をご紹介頂き、Iannacone博士からも快く承諾を頂きました。大学院卒業後、いくつかの海外留学助成に応募し、運良く、上原記念生命科学財団より助成を受けることができましたので、イタリア留学を決めました。

渡航準備とパンデミック

財団より助成決定の通知があったのは2019年12月、新型コロナウイルスの発生が初めて報告された月でした。その時点では2020年夏から留学を開始する予定でしたが、感染拡大に伴い、労働許可証やビザの発給が止まってしまいました。水際対策が緩和された後でも、手続きの進行は非常に緩徐な状態でした。それでも留学する事を諦めず、少しずつ手続きを進めていき、1年半かけて、2021年6月に労働ビザを手に入れることができました。通常であれば、研究所との雇用契約や家族帯同ビザ取得を含めた諸手続きは4〜6ヶ月程度のようなので、思いがけず長期間待つことになりましたが、ちょうどコロナウイルスに対する1・2回目ワクチンが終わり、接種証明書が受け取れるようになったタイミングであったので、良かった面もありました。また、この待機期間中に、以前イタリアに留学されていた先生にも出会い、留学時の細かなアドバイスを頂くことができ、有意義でもありました。

所属研究室と研究内容

留学先であるSan Raffaele研究所は、私立病院と医科大学が併設された、イタリアでも有数の研究所です。場所はミラノ郊外にあり、私が住んでいるミラノ中心部からは、地下鉄を使って片道35分程度の通勤になります。研究室はDynamics of Immune Responsesという部署であり、ウイルスに対して免疫細胞がどのようにふるまうかを、マウスモデルを利用して研究しています。私が日本で行っていた研究とテーマや手法は似ており、日本ではフローサイトメトリーを中心に行なっていましたが、こちらではそれに加えて、共焦点や生体内観察といった蛍光観察の顕微鏡技術を学んでおります。私としては、自分の今までやってきたことをベースに、新たな技術を学べるという点において、こちらの研究室は合っていたと思います。研究室の規模としては、P.I.のIannacone博士の下に、Assistant professorが2人、私を含めたPostdocが7人、PhD studentが6人、Master studentが3人、Lab manager が1人、Technicianが5人、合計25人の体制で日々の研究を行っています。このうち7割以上が女性研究者であり、日本との、研究における環境の違いに驚きました。研究室のカンファレンスは週に1回、2時間程度で、PostdocsとPhD studentsが順番に、自分の実験データを発表したり、興味深い最新論文の抄読会(journal club)を行っています。また、研究所全体で様々な分野のセミナーが週3コマ程度開催されますので、自分が興味のある、他の研究室の成果をオンラインで聞くことができます。セミナーを含めカンファレンスは、全て英語で行われるため、イタリア語のできない私でも、仕事には大きな支障はありません。また、英語が母国語ではない者同士の特徴として、コミュニケーションに難しい英単語を使わない、というメリットもあるかもしれません。

イタリアでの生活

まず一番心配なのは、言語の問題かと思います。研究室では英語が通じますが、日常生活ではイタリア語が必要な場面も出てきます。ミラノは観光都市ですのでレストランやショップでは英語が通じることが多いですが、公的機関では通じない事もあります。しかし、お国柄か、多くのイタリア人は面倒見が良く、研究所の同僚は、「イタリア語に困ったら電話してくれ」と言ってくれており、実際に助けてもらう場面も多々ありました。

そのような苦労を上回る、イタリア生活のメリットとして、第一に観光が挙げられます。ローマ・ヴェネツィアをはじめ、イタリアには世界遺産がたくさんあります。この体験記を書いている2022年3月現在、イタリア国内へは自由に旅行でき、ミラノ近郊都市も含め、1ヵ月に1〜2回くらいのペースで国内旅行しています。また、長期休暇や連休を利用して、EU圏内の各国に行くことを計画しています。第二に、食文化の点においては、イタリアは恵まれた留学先だと思います。イタリアはレストランの数が日本に比べて圧倒的に多く、外食を楽しむ事が出来ます。前菜、プリモ(スパゲッティやリゾット)、セコンド(肉・魚料理)から2種類くらい頼むのがイタリア流で、どのお店でも美味しい料理を頂くことができます。また、ワインはイタリアを代表する飲み物ですので、スーパーに行けば、1本5ユーロ以下でも美味しいワインが手に入ります。最後に、ミラノはファッションの街で、ヨーロッパ中のブランドショップのみならず、セレクトショップやこだわりのあるブティック、また手頃な革製品のお店が数多くあり、興味のある方には非常に楽しい街だと思います。年2回、街全体がセールになるので、その際には特に買い物を楽しむことができます。

最後に

私はまだ、留学を開始して半年になりますので、様々な経験をこれから積んでいくのだと思います。留学に至るまでを含め、苦労もありましたが、今、人生におけるかけがえのない体験が出来ていると感じています。このような貴重な機会を頂き、中島淳教授、斉藤聡教授をはじめとする横浜市立大学肝胆膵消化器病学の諸先生方、ならびに田中靖人教授、五十川正記先生に感謝を申し上げます。

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